日本の建設業界は、長年にわたり、人手不足や高齢化といった構造的な課題を抱えてきました。特に、現場の最前線で働く方々から「頑張っても生産性が上がらない」「業務負担が増える一方だ」という声が多く聞かれます。煩雑な書類作成やアナログな情報共有、そして2024年問題として現実味を増す時間外労働規制の適用は、この状況にさらに拍車をかけています。しかし、この課題を解決するのがDX（デジタルトランスフォーメーション）です。
DXはデジタル技術を戦略的に活用し、これまでの非効率な業務プロセスそのものを根本から変革することで、現場の生産性を劇的に向上させることを目指します。現場監督の事務作業を減らし、職人の方々が本来の作業に集中できる時間を生み出す…。そして限られた時間の中で、より高い品質と安全性を確保することが可能になります。
本記事では、なぜ現場の生産性が上がらないのかという根本原因を徹底的に分析した上で、施工管理から検査までの業務プロセスを効率化する具体的なDX術を詳しく解説します。
1. なぜ現場の生産性は上がらないのか？根本原因を徹底分析
多くの現場でそれが実現しないのには、複数の根深い原因が存在します。日々の業務に追われる中で見過ごされがちですが、DXを推進するためには、まずその根本原因を正しく理解することが出発点となります。
煩雑な書類作成とアナログな情報共有の壁
建設現場では日報、作業報告書、写真整理、各種チェックリストなど、膨大な量の書類作成が求められます。多くは、手書きやExcelでの手入力に頼っており、現場から事務所に戻ってからの長時間にわたる事務作業の原因になっています。また、関係者間での情報共有も、FAX、メール、電話に依存しているため、タイムラグが生じやすく、情報の散逸や認識のずれが頻繁に起こります。最新の図面や変更事項が正確に共有されないことで、手戻りが発生し、無駄な時間とコストが増えてしまうのです。
属人化する業務とベテランのノウハウが継承できない問題
長年の経験と勘に裏打ちされたベテラン技術者のノウハウは、現場の品質と安全性を支える貴重な財産です。ただ、知識や技術は個人の頭の中に留まっていることが多く、若手への技術継承が困難な状況を生み出しています。特定のベテランにしかできない「属人化」した業務が多いと、その人が不在の時に作業が滞ったり、若手の育成が遅れたりします。属人化の問題は、業界全体の高齢化が進む中で深刻なリスクと言えるでしょう。
2024年問題で顕在化する業務負担の限界
2024年4月から建設業に適用される時間外労働の上限規制は、現場の業務負担の限界を露呈させました。従来の長時間労働を前提とした働き方では、もはや業務量をこなすことが難しくなります。現場管理者は、工程管理、安全管理、品質管理に加え、残業時間の管理という新たなタスクにも追われ、一人あたりの業務負担は増大する一方です。このままでは離職者の増加を招き、さらなる人手不足に陥るリスクが高まります。限られた時間の中で効率的に業務を遂行する仕組みを構築しなければ、企業の存続そのものが危ぶまれるでしょう。
2. 現場の生産性を劇的に変える「デジタル化」の第一歩
「生産性が上がらない」課題を解決するためには、デジタル技術の力を借りて、業務の仕組みそのものを変える必要があります。ここでは、現場の生産性を劇的に変えるための、具体的なデジタル化の第一歩として、すぐに導入できる3つの主要なDX術をご紹介します。
施工管理アプリで日報・写真管理を自動化
建設現場の事務作業で大きな負担となっているのが、日報作成や現場写真の整理です。施工管理アプリを導入すると、スマートフォンやタブレットから現場で直接、日報を作成できます。また、撮影した写真にその場でコメントやタグを付け、クラウドに自動でアップロード・整理する機能を使えば、事務所に戻ってからの面倒な作業が不要になります。現場監督や職人の方は、事務作業に費やしていた時間を本来の現場作業に充てることができ、労働時間の短縮と生産性の向上を両立させることが可能になります。
BIM/CIMやドローン活用で設計・測量から効率化
BIM/CIM（Building Information Modeling/Construction Information Modeling）は、3Dモデルに属性情報をあたえて、設計から施工、維持管理までを一元管理するシステムです。設計段階で干渉チェックや施工シミュレーションができ、手戻りを大幅に削減できます。
また、ドローンを用いた3D測量技術は、広大な敷地の測量を短時間で高精度に行うことを可能にします。プロジェクトの初期段階からデジタルデータを活用することで、工程の効率化に繋がります。
勤怠・労務管理のデジタル化でバックオフィス業務を最適化
2024年問題に対応するためには、従業員の労働時間を正確に把握し、適正に管理することが必須です。クラウド型の勤怠管理システムを導入すると、スマートフォンやICカードを使って従業員が簡単に出退勤を記録でき、労働時間が自動で集計されます。手書きのタイムカードやExcelでの集計作業が不要になり、管理者の事務負担を大きく軽減できます。残業時間の上限に近づいた従業員にアラートを出す機能があれば、過重労働を未然に防ぎ、法令遵守を徹底できます。バックオフィス業務の効率化は、現場の生産性向上にも間接的に貢献するでしょう。
3. 現場監督の業務負担を軽減するDX活用術
現場の生産性を向上させる上で、最も重要なのが現場監督の業務負担をいかに軽減するかです。彼らは多岐にわたる業務を一人で担うことが多く、その負担の大きさが長時間労働の大きな原因になっています。現場監督の仕事の質を高めながら、残業時間を減らすための具体的なDX活用術をご紹介します。
クラウド活用でリアルタイムに情報共有
現場監督の業務負担は、情報共有の不備から生じる手戻りや確認作業によって増大します。クラウド型情報共有ツールを活用することで、最新の図面や写真、進捗状況のデータをリアルタイムで共有できます。現場にいながらスマートフォンやタブレットで図面や仕様書を確認し、変更点があればすぐにチーム全体に周知できるのです。認識のずれから発生するトラブルを防ぐことや、事務所にいる上司もリアルタイムで現場の状況を把握できるので、迅速な意思決定が可能になります。
電子黒板とAIで検査・記録業務を簡素化
現場での写真撮影や記録業務は、手間と時間がかかる作業の一つです。電子黒板アプリを導入すると、写真撮影時に黒板情報をデジタルで付与できるため、黒板の持ち運びや書き換えが不要になります。撮影作業が効率化するだけでなく、事務所に戻ってからの写真整理もスムーズになります。
AIを活用したシステムを導入すれば、撮影した写真から配筋のピッチや部材の寸法を自動で判定・記録してくれるため、検査業務の簡素化と精度向上を両立できます。検査にかかる時間を大幅に短縮し、業務負担を軽減する画期的な方法です。
遠隔臨場とチャットツールでコミュニケーションを円滑化
現場監督は、日々、多くの関係者とコミュニケーションを取る必要があります。遠隔臨場は、遠隔地にいる発注者や上司が、現場監督が持つスマートデバイスの映像を通じて、リアルタイムで現場の状況を確認し、指示を出せる仕組みです。現場に足を運ぶ手間と時間を削減できるので、移動時間の短縮に繋がります。SlackやMicrosoft Teamsといったチャットツールを導入すれば、協力会社や職人の方々との連絡がより迅速かつ手軽に行えるようになります。メールよりも手軽なコミュニケーションで、質問や確認事項をすぐに解決できるため、業務効率が格段に向上します。
4. 現場の生産性向上DXが拓く未来
DXの推進は目の前の課題を解決するだけでなく、建設業界の未来を明るく照らすものです。どんな未来が考えられるでしょうか？
データ活用で手戻りを防ぎ、品質管理を高度化
DXによって蓄積されたデータは、現場の生産性を向上させるだけでなく、品質管理を高度化する上でも重要な役割を果たします。施工管理アプリやIoTセンサーを通じて収集された過去の施工データや検査記録を分析することで、品質に影響を与える要因を特定し、より精度の高い施工計画を立てることができます。また、BIM/CIMモデルを活用した3Dでの品質チェックは、従来の目視検査では見過ごされがちな問題点を早期に発見し、手戻りを防ぎます。これにより、施工品質の均一化が図られ、顧客からの信頼向上にも繋がるでしょう。
労働環境の改善で若手にも選ばれる建設業へ
生産性向上は、労働環境を根本から改善します。現場監督の業務負担が軽減され、労働時間が短縮されることで、従業員はプライベートの時間を確保しやすくなります。ワークライフバランスを重視する現代の若者にとって、建設業界を魅力的に映す大きな要因となるでしょう。ドローンやAIといった最新技術を駆使するスマートな建設現場は、従来の「きつい、汚い、危険」といった3Kのイメージを刷新し、ITリテラシーの高い若手人材の入職を促します。DXは、持続的な人材確保と業界の未来を繋ぐための重要な投資です。
生産性向上と競争力強化で持続可能な経営を実現
企業の競争力そのものを高めます。少ない人数で効率的に業務を遂行できる体制が整うことで受注能力が向上し、収益性の改善に繋がります。短期的な利益追求だけでなく、企業が長期的に安定して成長するための盤石な経営基盤を確立します。DXは、建設業界における持続可能な経営を実現するための、有効な戦略と言えるでしょう。
まとめ：「現場の生産性が上がらない」を解決し、未来を切り拓くDX術
建設業界が直面する「生産性が上がらない」という課題は、DXによって解決できると、私たちは信じています。DXの成功は戦略的なアプローチと、現場の声に耳を傾ける組織づくりにかかっています。今こそ、デジタル変革の波に乗り、生産性の壁を乗り越え、未来を切り拓く一歩を踏み出しましょう。
