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安全運転管理もDXへ:i-Construction 2.0時代の運行管理システム活用術

従来の安全運転管理は、紙ベースや目視確認が中心で、その限界が指摘されています。しかし、国土交通省が推進する「i-Construction 2.0」は、DXの波を安全運転管理にも広げ、「運行管理システム」の活用によって、持続可能な安全な現場づくりを目指しています。
本記事では、建設現場における安全運転管理の現状と課題、DXによる変革の仕方を解説します。


建設現場における安全運転管理の現状と課題

建設現場における安全運転管理は、依然として多くの課題を抱えています。これらの課題を深く理解することが、DXによる変革の第一歩となります。

建設業で起きている交通事故・労働災害の実態

建設業では、他の産業と比較して交通事故や労働災害の発生件数が依然として高く、その実態は深刻です。土砂や資材の運搬を担うダンプトラックや重機による事故は、重大な結果に繋がることが少なくありません。過積載、長時間運転、疲労運転などが原因で発生する事故は、ドライバーだけでなく、現場作業員や一般通行人を巻き込むリスクも抱えています。これらの事故は、人命に関わるだけでなく、企業の信用失墜や経済的損失にも繋がります。

安全運転管理者制度と法令対応の現状

道路交通法に基づく「安全運転管理者制度」は、一定台数以上の車両を保有する事業所に義務付けられています。この制度では、安全運転管理者を選任し、ドライバーへの指導、運行計画の作成、車両の点検などを行うことが求められています。しかし、多くの建設現場では、紙ベースの管理や目視確認に依存している現状があります。これでは、膨大な管理業務に時間がかかり、ドライバーの労働時間も圧迫され、法令遵守への対応も十分ではない場合があります。

紙ベース・目視確認による限界と人為的ミス

従来の安全運転管理は、運転日報の記入、アルコールチェック、車両点検記録などを「紙ベース」で行い、ドライバーの挙動や車両の状態を「目視確認」することが主流でした。しかし、この方法には明らかな限界があります。紙媒体での情報共有は遅延しやすく、紛失のリスクも伴います。また、目視確認では見落としが発生し、「人為的ミス」による事故のリスクを完全に排除できません。膨大な情報を手作業で処理するため、管理業務の負担も大きく、効率的ではありません。

長時間運転・過積載・疲労運転のリスク構造

建設現場では、タイトな工期や運搬量の多さから、「長時間運転」「過積載」「疲労運転」といったリスクが常態化しやすい構造があります。ドライバーの労働時間が長くなると、集中力の低下や判断力の鈍化に繋がり、交通事故のリスクが高まります。また、過積載は車両の安定性を損ない、制動距離を伸ばすため、非常に危険です。これらのリスクは、ドライバー自身の安全だけでなく、現場全体の安全を脅かす重大な要因となります。


i-Construction 2.0が示す安全運転DXの方向性

施工から運行までを統合管理する「現場DX」の進化

i-Construction 2.0は、建設生産プロセス全体のDXを目指すものです。これまでのi-Constructionが施工段階のICT活用に重点を置いていたのに対し、i-Construction 2.0では、測量、設計、施工、検査だけでなく、「運行」管理まで含めた「統合管理」へと進化しています。つまり、ICT建機による高精度な施工と、ダンプの運行管理を連携させることで、建設現場全体の「現場DX」を推進し、工事の効率化と安全性の向上を同時に実現しようとしています。

運転データ・稼働データを連携させる安全管理の新潮流

安全運転DXの方向性は、「運転データ・稼働データを連携させる安全管理」です。ダンプトラックに搭載されたGPS、加速度センサー、AIカメラなどから得られる「運転データ」と、ICT建機や施工管理システムから得られる「稼働データ」を連携させることで、より包括的な安全管理が可能となります。

AI・IoT技術によるドライバー行動の可視化

AIとIoT技術の進化でドライバーの「行動の可視化」を可能にします。IoTセンサーは、車両の急加速、急減速、車間距離の不保持といった運転挙動をリアルタイムで検知します。さらに、AIカメラは、ドライバーの居眠り、脇見運転、スマートフォン操作などを自動で検知し、警告を発します。これらの技術により、人間の目視では把握しきれなかった潜在的な危険行動を正確に捉え、可視化することで、具体的な安全指導や対策に繋げられます。

運行ログ×施工スケジュールの突合による危険予測

デジタル運行管理システムは、ダンプの「運行ログ」を詳細に記録します。この運行ログと「施工スケジュール」を突合することで、「危険予測」の精度が飛躍的に向上します。例えば、特定の時間帯に、特定のルートで、大量のダンプが集中して運行する計画がある場合、AIがその潜在的な事故リスクを予測し、事前に管理者やドライバーにアラートを発します。これにより、運行計画の再調整や、安全確保のための人員配置など、先手を打った対策が可能となります。


安全運転DXで実現する「労働時間削減」と「事故ゼロ現場」

安全運転DXは、労働時間削減と事故ゼロ現場という、建設業界が目指すべき二つの目標を同時に実現する強力な手段となります。

運転日報の自動化で管理負担を軽減

ダンプの運行データを自動で収集・記録するため、運転日報の自動化を実現。ドライバーや管理者の「管理負担を軽減」します。手書きによる日報作成の手間が省け、転記ミスもなくなることで、ドライバーは本来の運転業務に集中できます。また、管理者側も日報の集計やデータ入力作業が不要となるため、バックオフィス業務の効率が向上し、労働時間削減に貢献します。

ヒヤリハット報告のデジタル記録と再発防止分析

ヒヤリハット報告は、重大事故の予防に不可欠。ヒヤリハット報告を「デジタル記録」し、クラウド上で一元管理します。報告された内容は、発生場所、状況、原因などを詳細に記録し、AIが類似事例を分析することで、「再発防止分析」を効率的に行えます。

過労運転を防ぐ稼働スケジュール最適化

ドライバーの運行ログや労働時間データを蓄積し、稼働スケジュールを最適化。2024年問題に対応するため、AIがドライバーの運転可能時間を計算し、無理のない運行計画を自動で立案します。長時間運転や連続運転になりそうな場合には、システムが自動で警告を発したり、休憩を促したりすることで、過労運転を防ぎ、労働基準法遵守とドライバーの健康維持に貢献します。

走行データを用いたリスクマップ・危険エリア分析

ICT運行管理システムに蓄積された膨大な「走行データ」は、「リスクマップ・危険エリア分析」に活用できます。特定の交差点やカーブで急加速・急減速が頻繁に発生している場所、またはAIカメラが危険挙動を頻繁に検知する場所などをリスクマップとして可視化します。分析結果を基に、交通量の多い時間帯の運行を避ける、注意喚起の標識を設置する、ドライバーへの重点的な指導を行うなど、具体的な対策を講じ、現場全体の安全性を高めます。


未来で起こり得ること:AIと自動運転が変える安全運行のかたち

安全運転DXの進化は止まりません。未来の建設現場は、AIと自動運転技術によって、安全運行のかたちが大きく変わるでしょう。

自律走行ダンプ・無人運搬の社会実装と安全性検証

未来の建設現場では、自律走行ダンプ・無人運搬の社会実装が進むでしょう。AIとIoT技術によって完全に自動化されたダンプトラックが、人手を介することなく土砂や資材を運搬します。これにより、ドライバーの長時間運転や疲労運転による事故リスクを根本的に排除できます。

AIによるリスク予測・リアルタイム判断支援

AIは、膨大な運行データ、天候、交通情報、現場の状況、さらにはドライバーの生体情報(心拍数、脳波など)をリアルタイムで分析し、潜在的な事故リスクを極めて高精度で予測。危険を察知した場合、AIが自動でルート変更を提案したり、車両を安全な場所へ誘導したりするなど、人間の判断を補完し、事故を未然に防ぐ判断支援を行うようになるでしょう。

安全運転データの地域・業界共有によるナレッジ化

得られる膨大な安全運転データは、「地域・業界共有によるナレッジ化」へと繋がります。例えば、特定の地域で頻発する事故パターンや、特定の道路での危険挙動などがデータとして集約・分析され、その知見が地域全体や建設業界全体で共有されます。個々の企業だけでは得られない広範な安全対策のノウハウが蓄積され、業界全体の安全レベルを底上げする「ナレッジベース」が構築されます。

サイバーセキュリティとデータ倫理の新たな課題

AIや自動運転技術の導入が進む未来では、「サイバーセキュリティとデータ倫理」が新たな課題として浮上。運行管理システムがインターネットに接続され、AIが自動運転を制御するようになると、不正アクセスやデータ改ざんのリスクは無視できません。ドライバーの生体情報や運転挙動といった個人情報を扱う上でのデータ倫理、AIの判断に対する責任の所在なども、社会的な議論が必要となるでしょう。

“ゼロアクシデント建設現場”の実現に向けて

ICT運行管理システムが進化し、AIや自動運転技術が社会実装されることで、“ゼロアクシデント建設現場”の実現は夢物語ではなくなります。人間が担う作業のリスクを最小限に抑え、機械が危険な作業を自律的に行うことで、建設現場から重大事故をなくすことが可能となります。これは、建設業界で働く全ての人の安全を守り、安心できる職場環境を創出するための究極の目標であり、DXはその実現を強力に後押しするでしょう。


まとめ:安全運転管理DXは、i-Construction 2.0が目指す「事故ゼロ現場」への道標

建設業界が直面する交通事故や労働災害の課題に対し「安全運転管理DX」は、i-Construction 2.0が示す新たな解決策です。従来の紙ベース・目視確認の限界を打破し、ICT運行管理システムの活用によって、持続可能な安全運転管理と「事故ゼロ現場」の実現を目指します。「ゼロアクシデントの建設現場」が実現できるなら、建設業界の働き方のイメージも大きく変わりそうですね。

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