国土交通省が推進するBIM/CIM原則適用は、建設業界のDXを加速させる重要な施策です。3次元データの活用を義務化するこの動きは、測量から設計、施工、維持管理に至るまで、建設プロセス全体を大きく変えます。この記事では、BIM/CIM原則適用の背景と目的、国交省が示すロードマップ、そして適用後に求められるデータ活用モデルについて解説します。
BIM/CIM原則適用の背景と目的
建設業界が直面する人手不足や生産性向上の課題を解決するため、国土交通省はBIM/CIMの普及を強く推進しています。その背景には、建設プロセス全体をデジタル化し、情報共有の効率化を図るという明確な目的があります。
義務項目 vs 推奨項目の区分と拡張ルール
BIM/CIM原則適用には、「義務項目」と「推奨項目」が区分されています。
「義務項目」は、対象となる公共工事においてBIM/CIMの活用が必須となる部分です。一方「推奨項目」は、より高度な活用を目指すためのもので、企業の自主的な取り組みを促します。
これらの区分は、段階的な導入を促しつつ、将来的には推奨項目も義務化していくという拡張ルールが設定されています。この区分を理解することが、適切な対応を考える上で重要です。
令和5年度以降の適用拡大方針
国土交通省は、令和5年度以降、BIM/CIM原則適用の対象を段階的に拡大する方針を示しています。具体的には、適用対象となる工事規模や工種を広げ、最終的には全ての公共工事でのBIM/CIM活用を目指しています。
国交省 PT(検討委員会)構成と今後の焦点
国土交通省内には、BIM/CIMの推進に関する専門の検討委員会(PT)が設置されています。このPTは、学識経験者、建設会社、コンサルタント、ソフトウェアベンダーなど、多様な分野の専門家で構成され、BIM/CIMに関する技術基準や運用ガイドラインの策定、課題解決に向けた議論を行っています。今後の焦点は、BIM/CIMデータの標準化、デジタルツインへの応用、そして地方自治体や中小企業への普及促進策にあると言えるでしょう。
施策とインセンティブ制度の動向
国土交通省は、普及を促進するため、施策やインセンティブ制度を導入しています。BIM/CIMを活用した工事に対しては、工事成績評定での加点や、契約方式の見直しが行われることがあります。また、関連するソフトウェア導入や人材育成に対する補助金・助成金制度も用意されています。

BIM/CIM適用後に問われる“データ活用モデル”の革新
3次元モデルを作成するだけでなく、その後の「データ活用モデル」の革新を企業に求めます。設計から維持管理までのライフサイクル全体でデータを活用し、新たな価値を創出すること。それが今後の競争力を左右します。
CDE(共通データ環境)の高度化設計
効率的に活用するためには「CDE(共通データ環境)」の設計をしてみましょう。CDEとは、プロジェクトに関わる全ての関係者が、3次元モデルや関連情報を一元的に管理・共有できるプラットフォームのことです。このCDEを高度化することで、情報のサイロ化を防ぎ、リアルタイムでの情報共有、そしてデータに基づいた迅速な意思決定が可能になります。セキュリティとアクセス管理を考慮した設計が求められます。
統合モデル vs 分散モデル:連携戦略
全てのデータを一つの巨大なモデルに集約する「統合モデル」と、各分野のモデルを連携させる「分散モデル」という考え方があります。統合モデルは、全体像を把握しやすいという利点がありますが、データ容量が大きくなるという課題があります。分散モデルは、各分野の専門性を活かしつつ、必要なデータを連携させることで効率的な運用が可能です。自社のプロジェクト規模や組織体制に合わせて、最適な連携戦略を構築することが重要です。
3次元モデルと維持管理データの融合
3次元モデルは、工事が完了した後も、その価値を失いません。維持管理フェーズにおいて、施設の点検履歴、修繕計画、センサーデータなどの情報を3次元モデルと融合させることで、より効率的で計画的な維持管理が可能になります。例えば、モデル上で劣化箇所を可視化したり、修繕履歴を確認したりできるデジタルツインのような活用法も考えられます。
AI・機械学習を活用したインフラ状態予測
3次元モデルと維持管理データを融合させることで、AIや機械学習を活用した新たなサービスが生まれます。AIが過去の点検データや修繕履歴、気象データなどを分析し、インフラの劣化状況や将来の不具合発生時期を予測します。この予測データは、予防保全計画の最適化や、予算配分の効率化に役立ちます。AIによるインフラ状態予測は、維持管理コストの削減と安全性の向上に大きく貢献します。
デジタルツイン構築の応用と課題
BIM/CIMは、「デジタルツイン」構築の基盤となります。現実のインフラや建物をデジタル空間に再現し、リアルタイムで情報を同期させる技術です。BIM/CIMモデルにIoTセンサーから得られる稼働状況や環境データを連携させることで、仮想空間上でインフラの現状を正確に把握し、様々なシミュレーションを行えます。デジタルツインの構築には、データ連携の複雑さやセキュリティ確保などの課題もありますが、その応用可能性は無限大です。
分野別展開と適用拡張のカギ
橋梁・トンネル:特定部・補強設計への適用
橋梁やトンネルといった複雑な構造物では、BIM/CIMの活用が有効です。設計段階で3次元モデルを作成することで、部材同士の干渉チェックや、施工シミュレーションを詳細に行えます。また、補強設計においても、既存の構造物を3次元モデル化し、補強箇所や方法をモデル上で検討することで、手戻りを減らし、施工品質を高めます。維持管理フェーズでは、点検結果をモデルに紐づけ、劣化状況を可視化することも可能です。
道路・線形構造:路面モデル・車道最適化
道路や堤防などの、線形構造物も良いでしょう。3次元モデルで路面形状を正確に表現し、排水計画や車道幅員の最適化を図れます。ICT建機と連携させれば、3次元データをもとに自動で路盤形成や舗装を行うことが可能となり、施工精度と効率が向上します。また、維持管理では、路面の劣化状況を3次元モデル上で管理し、計画的な補修に役立てることもできます。
河川・砂防・治山分野での地形変動モデル応用
河川、砂防、治山といった分野では、地形変動モデルに応用することが期待されています。ドローンやレーザースキャナで取得した地形データを3次元モデル化し、河川の氾濫シミュレーションや、土砂災害のリスク分析に活用できます。治山工事の計画では、3次元モデル上で植生の状態や土壌の状況を把握し、最適な工法を検討します。これらの活用は、災害リスクの軽減や、より効果的な防災計画の立案に貢献します。
通信・電力附帯設備とのインフラ統合
建設される建物や構造物だけでなく、それに付帯する通信設備や電力設備など、様々なインフラの統合管理にも応用できます。それぞれの設備を3次元モデル化し、一つの統合モデル上で管理することで、設計段階での干渉チェックや、維持管理での情報共有が容易になります。これにより、都市全体のインフラを効率的に管理し、スマートシティの実現にも繋がります。
地方自治体・地場業者への展開戦略
国交省は、BIM/CIM導入に関する情報提供や、研修プログラムの実施、補助金・助成金制度の活用促進などを通じて、地方での導入を後押ししています。地場業者がBIM/CIMを活用できるよう、導入コストの低減や、使いやすいツールの提供、そして地域に根ざしたサポート体制の構築が、今後の展開戦略のカギとなります。

まとめ:BIM/CIM原則適用が示す、建設業界の新たな未来
国土交通省が推進するBIM/CIM原則適用は、建設業界に大きな変革をもたらす重要なマイルストーンです。3次元データを設計、施工、維持管理の全フェーズで活用することは、今後の未来を切り拓くための強力な一手となります。












