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ICT施工の次のステージ「自律施工」とは?建設機械の完全無人化に向けた最新研究を徹底解説

国土交通省が推進する「i-Construction」により、ICT技術を建設現場に導入する動きは加速してきましたが、その進化は止まりません。今、次に目指すべきステージとして「自律施工」が大きな注目を集めています。自律施工とは、建設機械が人間の操作を介さずに、自律的に作業を遂行する技術であり、建設現場を根本から変える可能性があります。

本記事では、なぜ今、自律施工がこれほどまでに求められているのかを、実践的な視点からご紹介します。


1. なぜ今、建設機械の「自律施工」が求められるのか?

建設業界が自律施工へと向かう背景には、複数の切実な理由が存在します。これまでのICT施工で得られた成果をさらに高め、業界全体の持続可能性を確保するためには、もはや人間の作業員に頼るだけでは限界があるという認識が広がっているのです。

ICT施工から自律施工へ:次世代の技術革新

これまでのICT施工は、オペレーターが建機に搭載されたガイダンスシステムやモニターの指示に従って操作する「半自動化」の域を出ないものが主流でした。しかし自律施工は、GPSやセンサー、AIなどの技術を組み合わせることで、建機が作業プロセス全体を自律的に判断し、実行することを目指します。作業そのものを機械が担う「完全自動化」への移行を意味します。

深刻化する人手不足への根本的解決策

日本の建設業界は、全産業の中でも特に人手不足が深刻で、担い手の確保は喫緊の課題です。自律施工が実現すれば、建機が夜間や休日も無人で稼働できるため、労働時間削減と工期短縮を両立できます。

危険作業の完全排除と安全性向上

建設現場は、高所作業や重量物の運搬、悪天候下での作業など常に危険と隣り合わせです。

建機が自ら作業を行う自律施工は、オペレーターが危険な場所に立ち入る必要がなくなります。AIが現場の状況を常に監視し、人や障害物を検知して自動で停止する機能などにより、ヒューマンエラーによる事故のリスクを限りなくゼロに近づけることができます。作業員の安全性を飛躍的に高め、より安全な職場環境にできますね。


2. 自律施工を実現する最新技術の仕組みと構成要素

自律施工は、単一の技術で実現できるものではありません。複数の最先端技術が有機的に連携し、あたかも人間のように建機が「認識」「判断」「行動」を繰り返すことで成り立っています

3次元測位・認識技術とAIによる自動制御

建機が自律的に作業を行うには、まず自身の位置を正確に把握する必要があります。この役割を担うのが、GNSS(全球測位衛星システム)やGPSといった3次元測位技術です。複数の測位衛星からの電波を利用し、ミリ単位の精度で建機の位置をリアルタイムに特定します。同時に、LiDAR(ライダー)やカメラなどのセンサー技術で周囲の状況を認識。これらの情報をAIが統合的に分析し、あらかじめ設定された3次元設計データに基づいて最適な作業計画を立案し、建機の動作を自動で制御します。

遠隔監視・遠隔操作システムとの連携

現場では、万が一のトラブルや予期せぬ事態に備え、人間の監視と介入は不可欠です。必要に応じて管理者が遠隔で建機を操作できる遠隔操作システムも重要です。現場の建機から送られてくる映像やセンサー情報をリアルタイムで管理者に伝え、安全性を確保します。作業員は危険な現場に立ち入ることなく、安全な場所から作業をコントロールできます。

複数台の建機が協調して作業する「群制御技術」

大規模な建設現場では、複数の建機が同時に作業を行います。複数台の建機が互いに協調しながら作業を進める「群制御技術」が研究・開発されています。例えば、掘削した土砂をダンプトラックに積み込む作業において、油圧ショベルとダンプが互いの位置情報を共有し、最適なタイミングでスムーズに連携して作業を遂行します。


3. 自律施工が建設現場にもたらす具体的な変化

自律施工は、建設現場の風景を大きく変えるでしょう。これまでの「人が建機を動かす」という構図から、「機械が自律的に動き、人がそれを管理する」という新しい働き方へと変わります。

施工プロセスの自動化と無人化、そして24時間稼働

建設現場の主要な作業を自動化・無人化します。広大な土地の掘削や整地、あるいは資材の運搬といった作業は、人間のオペレーターを必要とせず、建機が自律的に行えるようになるでしょう。これによって労働力の不足を補い、人件費を削減できます。夜間や休日も無人で作業を進められるため、工期を大幅に短縮することも可能になります。

現場監督の役割と働き方の変革

普及すると、現場監督の役割は大きく変わります。従来の現場での指示や監督業務から、複数の現場を遠隔で監視。AIが立案した計画の最終確認や、予期せぬ事態への対応といった、より高度なマネジメント業務へとシフトするでしょう。クリエイティブな仕事に集中できるようになります。働く場所も選びやすくなりますね。

施工データの自動取得と品質管理の高度化

自律施工を行う建機は、作業中に得られた位置情報や掘削量、積載量といった様々な施工データを自動で取得し、クラウド上に蓄積します。手作業で行っていた出来形管理や報告書作成の手間が不要になり、事務作業が大幅に削減されます。蓄積された大量のデータは、AIが分析することで、より精度の高い品質管理や施工計画の改善に活用できます。


4. 実現に向けた最新研究動向と今後の展望

まだ研究開発段階にある部分も多いですが、実現に向けて、国や民間企業が連携して様々な取り組みを進めています。動向を理解することは、建設業界の未来を予測する上で不可欠です。

国の施策(i-Construction 2.0)と通信技術(5G/6G)

国土交通省が推進する「i-Construction 2.0」は、自律施工の実現を強力に後押ししています。i-Construction 2.0の主要な施策であるBIM/CIMの原則適用拡大や3次元データ活用の推進は、自律施工に必要な「デジタルツイン」や「データ駆動型マネジメント」の基盤を構築するものです。また、5Gやその次の世代である6Gといった次世代通信技術は、高速・大容量・低遅延という特徴で、建機とクラウド、遠隔地の管理者との間で、大量のデータをリアルタイムでやり取りできる環境を整備し、自律施工の実現を加速させています。

デジタルツインやロボット技術との融合

デジタルツインやロボット技術との融合によって、さらに進化することが見込まれます。デジタルツインは、現実の建設現場やインフラをデジタル空間に再現し、AIがその中でシミュレーションを行うことで、最適な作業計画を立案するのに役立ちます。ロボットは、建機では対応しきれない細かな作業や危険な高所作業などを担うことで、作業の自動化範囲をさらに広げ、現場全体の無人化を進めるでしょう。


まとめ:自律施工の社会実装に向けた課題

自律施工の社会実装に向けては、いくつかの課題が残されています。技術的な面では、予期せぬ状況や不測の事態に建機がどう対応するか、AIの判断精度をいかに高めるかといった点が挙げられます。制度的な面では、無人建機が公道や一般の工事現場で稼働するための法整備や安全基準の再構築が必要です。導入コストの低減や、中小企業が自律施工に取り組めるための支援体制の整備も、今後の普及に向けた重要な課題となるでしょう。

ただ、今の現場の働き方を変える可能性がありますので、ぜひチェックしてください。

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